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FIP制度を活用した低圧案件における蓄電池導入ソリューション

shimada

2025年1月21日

FIP制度を活用した低圧案件における蓄電池導入ソリューション

はじめに

近年、再生可能エネルギーの導入拡大が進む中で、太陽光発電の出力変動抑制と電力系統安定化に貢献する蓄電池システムが注目されています。   固定価格買取制度(FIT)に代わり、市場価格連動型のフィードインプレミアム(FIP)制度が導入されたことで、蓄電池導入のメリットはさらに大きくなっています。特に、電力系統への接続が容易な低圧案件において、蓄電池は電力供給の安定化に大きく貢献すると期待されています。   


本稿では、FIP制度を活用した低圧案件における蓄電池導入ソリューションについて、設計・施工・保守・運用、補助金制度、リスク対策など多角的な視点から解説します。

FIP制度の概要と低圧案件における蓄電池導入のメリット

FIP制度とは、再生可能エネルギーで発電した電気を市場で売電し、その売電収入にプレミアムを上乗せする制度です。 FIT制度と異なり、市場価格の変動に応じて売電収入が変動するため、電力価格の高い時間帯に売電することで収益を最大化することができます。   


低圧案件において蓄電池を導入するメリットとして、以下の点が挙げられます。

  • ピークカット・電力料金削減: 電力需要のピーク時に蓄電池から放電することで、電力会社からの電力購入量を削減し、電気料金を抑制できます。

  • 自家消費率向上: 太陽光発電で発電した電気を蓄電池に貯めて自家消費することで、電力会社からの電力購入量を削減し、エネルギー自給率を高めることができます。   

  • BCP対策: 災害時など停電時に、蓄電池に貯めた電力を使用することで、事業継続性を確保できます。

  • 環境負荷低減: 再生可能エネルギーの利用拡大に貢献することで、CO2排出量削減に貢献できます。

さらに、FIP制度では、電力会社が系統運用を行う上で負担する費用の一部を、発電事業者が負担する「ディープ接続」と呼ばれる仕組みがあります。 また、「優先接続・優先給電」といった問題も残っており、FIT制度から引き継がれたこれらの課題は、FIP制度における低圧案件の経済的実現可能性に影響を与える可能性があります。   


低圧案件に蓄電池を導入した事例

低圧案件に蓄電池を導入した事例は、近年増加傾向にあります。 規模や用途別に、いくつかの事例を紹介します。   


  • 事例1:IH厨房設備のバックアップ  飲食店などで、停電時でもIH厨房設備を使用できるように、蓄電池を導入する事例です。   

  • 事例2:自治体施設への導入  公共施設に太陽光発電と蓄電池を導入し、ピークカットやBCP対策を行う事例です。富良野水処理センターでは、年間電力料金が2,000万円程度、年間CO2排出量が610tと市の施設の中で非常に多く、課題でしたが、蓄電池導入により自家消費率が最大限となるよう容量を検討しました。   

  • 事例3:工場への導入  工場に太陽光発電と蓄電池を導入し、電力の地産地消やCO2排出量削減を図る事例です。株式会社協同電子工業 北茅原工場では、PPA方式で太陽光239.8kW+蓄電池15kWhを導入し、自家消費率66.71%を達成しました。   

  • 事例4:メガソーラーへの蓄電池併設  福岡県のEPC企業である堀内電気が、熊本県大津町で運営するメガソーラーに蓄電池設備を併設した事例です。FITからFIPに切り替え、蓄電池を活用することで、出力抑制による売電収入減を解消し、経済産業省の補助金も活用することで、投資回収期間を3年と見込んでいます。   

蓄電池の種類、容量、出力、寿命、安全性、価格

蓄電池の種類、容量、出力、寿命、安全性、価格は、導入を検討する上で重要な要素となります。

種類

蓄電池の種類

容量 (kWh)

出力 (kW)

寿命

安全性

価格

その他の特徴

リチウムイオン蓄電池

1.0~20.0以上


10年~15年

高い

高い

エネルギー密度が高い、充放電効率が高い

鉛蓄電池



5年~10年

高い

低い

低価格、安全性が高い

NAS蓄電池



長寿命

高い

高い

長寿命、安全性が高い、設置スペースが大きい

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リチウムイオン蓄電池は、高いエネルギー密度と長寿命、高い安全性を備えています。 鉛蓄電池は、低価格で安全性が高い一方、寿命が短いという特徴があります。 NAS蓄電池は、長寿命と高い安全性を備えていますが、高価格である点が課題です。   


容量と出力

蓄電池の容量はkWhで表され、蓄えられる電気の量を示します。出力はkWで表され、一度に放電できる電気の量を示します。必要な容量と出力は、用途や電力消費量によって異なります。 再エネ比率が高まるにつれ、風況や日射変動による発電量の急変に対応できる高速調整力の重要性が増しており、蓄電池の応答性が評価される高速市場の整備が進められています。   


寿命

蓄電池の寿命は、充放電サイクル数や使用環境によって異なります。一般的に、リチウムイオン蓄電池は10年~15年、鉛蓄電池は5年~10年程度です。 蓄電池の寿命を延ばすためには、過放電や過充電を避けることが重要です。   


安全性

蓄電池は、適切に設置・運用することで安全性を確保できます。 火災や感電などのリスクを低減するために、安全規格に適合した製品を選び、専門業者による施工を行うことが重要です。 一部の蓄電池では、設置後にV2H(Vehicle to Home)システムを増設できるものもあり、電気自動車との連携による更なる利便性向上が期待できます。   


価格

蓄電池の価格は、種類、容量、出力によって異なります。1kWhあたりの価格は、リチウムイオン蓄電池で15~21万円程度です。 20kWhクラスの蓄電池では、本体価格240万円〜300万円、設置費用20万円〜30万円程度が一般的です。   


蓄電池システムの設計、施工、保守、運用

蓄電池システムを導入する際には、以下の点に注意する必要があります。

  • 設計: 蓄電池の種類、容量、出力、設置場所などを適切に設計する必要があります。 みなし低圧連系の場合は、受変電設備の系統連系保護装置を適宜見直す必要があります。   

  • 施工: 専門業者による施工が必要です。系統連系や安全対策など、専門的な知識と技術が求められます。 太陽光発電や他の発電との共存、半独立型、完全独立型のシステム等の構築も可能です。   

  • 保守: 定期的な点検やメンテナンスが必要です。蓄電池の寿命を延ばし、安全性を確保するために重要です。   

  • 運用: 蓄電池の充放電を適切に制御する必要があります。電力需要や太陽光発電の発電量に応じて、効率的な運用を行うことが重要です。   

長期にわたって効率的に運用していくためには、蓄電池本体の性能以外にも、事前に確認すべき重要なポイントがあります。 オーナーズエンジニアリングは、蓄電池やパワーコンディショナの選定、組合せ、機器配置、受電電力量算定など、導入における様々な検討事項をサポートし、長期脱炭素電源オークションへの参加や商業運転プロジェクトにおける運用計画の立案を支援します。   


FIP制度を活用した低圧案件における蓄電池導入の補助金や融資制度

FIP制度を活用した低圧案件における蓄電池導入には、以下の補助金や融資制度が利用できます。

  • 経済産業省: 再生可能エネルギー電源併設型蓄電池導入支援事業

    • 再生可能エネルギー発電設備に併設するFIP認定を取得した蓄電池の導入費用の一部を補助する制度です。   

    • 補助対象となる蓄電池容量は、FIP認定設備の出力(ACベース)に対して、0.5倍以上、3倍以下と定められています。   

       

  • 東京都: 系統用蓄電池導入支援事業    

これらの制度を利用することで、蓄電池導入にかかる費用を抑制することができます。

また、経済産業省は、FIP制度におけるアグリゲーションビジネスの活性化を促進しており、アグリゲーターとFIP事業者のマッチングプラットフォームの設立や、関連プレーヤーの理解醸成を目的とした勉強会などを開催しています。   


蓄電池導入による経済効果シミュレーション

蓄電池導入による経済効果をシミュレーションできるツールがあります。   


  • エネがえる: 家庭用・産業用に対応したシミュレーションツール    

  • 京セラ: 家庭用太陽光発電システムと蓄電池のシミュレーションツール    

これらのツールを利用することで、蓄電池導入によるピークカット、電力料金削減、自家消費率向上などの効果を事前に予測することができます。

蓄電池導入に関するリスクとその対策

蓄電池導入には、以下のリスクが考えられます。

  • 初期費用: 蓄電池システムの導入には、高額な初期費用が必要です。   

  • メンテナンス費用: 定期的な点検やメンテナンス費用が発生します。   

  • 寿命: 蓄電池には寿命があり、交換が必要となります。

    • 長期脱炭素電源オークションのような長期プロジェクトでは、蓄電池の劣化や点検停止などを考慮した計画が必要です。   

       

  • 安全性: 火災や感電などのリスクがあります。

    • 熱暴走による火災リスクは、プロジェクトの進捗段階ごとに適切な対策を講じる必要があります。   

    • 自然災害リスクとして、地震、津波、洪水、土砂災害、火山噴火、高潮、強風、落雷、竜巻、積雪など、10種類の災害に対するハザードグレーディング評価もしくは設備の脆弱性を考慮したリスクグレーディング評価を行う必要があります。   

    • サイバーセキュリティ対策も重要です。   

    • 火災リスクに対しては、日本産業規格(JIS)等により講じられる防火安全措置の効果を検証し、基準となる蓄電池容量の緩和を検討することができます。   

       

これらのリスクに対しては、以下の対策を講じることが重要です。

  • 補助金・融資制度の活用: 導入費用を抑制するために、補助金や融資制度を活用します。

  • 長寿命・高性能な蓄電池の選定: 寿命が長く、メンテナンス費用が抑えられる蓄電池を選びます。

  • 安全対策: 火災や感電などのリスクを低減するために、安全規格に適合した製品を選び、専門業者による施工を行います。

  • 保険加入: 蓄電池システムに関する保険に加入することで、リスクに備えます。

FIP制度や蓄電池導入に関する最新動向

FIP制度や蓄電池導入に関する最新動向を把握しておくことも重要です。

  • 出力制御: 再生可能エネルギーの出力抑制は増加傾向にあり、FIT案件への制御が増加し、FIP案件への制御が大幅に減少する見通しです。   

  • 蓄電池コスト: 蓄電池のコストは依然として高く、2030年度の目標コストとの乖離が課題となっています。 特に、蓄電池/インバータ及び工事費のコストが高く、その要因の一つとして、諸外国と比べて併設対象の再エネ出力が小さく、結果として蓄電池/インバータの容量が小さいことが考えられます。   

  • 補助金・支援制度: 経済産業省は、FIP制度を活用する再生可能エネルギー発電設備に併設する蓄電池等の導入を支援しており、2024年度からはGX経済移行債を活用し、国庫債務負担行為により総額400億円の事業を実施予定です。 また、東京都も、2024年度は系統用蓄電池の導入支援事業(予算額130億円)を予定しています。   

  • 技術動向: 蓄電池の技術開発は進展しており、更なる高性能化、低コスト化、安全性向上が期待されます。   

  • FIP制度の課題: FIP制度はFIT制度の課題を解決しないまま開始されており、制度設計の修正対応が求められています。   

  • 小規模事業者のFIP移行: 50kW未満の小規模電源をはじめ、FIP移行が困難な事業者への配慮が必要です。 小規模電源がオフテイカー/アグリゲーターを見つけることができるように環境整備を講じることが必要です。   

これらの情報を収集するために、ニュースサイトや業界誌などを活用しましょう。   


結論

FIP制度を活用した低圧案件における蓄電池導入は、ピークカット、電力料金削減、自家消費率向上、BCP対策など、多くのメリットをもたらします。蓄電池の種類、容量、出力、寿命、安全性、価格などを考慮し、適切なシステムを設計・施工・運用することが重要です。

導入費用を抑制するために、補助金や融資制度を活用することも有効です。また、蓄電池導入に関するリスクとその対策を理解しておくことも重要です。

FIP制度や蓄電池導入に関する最新動向を把握し、常に最適なソリューションを検討していくことが、再生可能エネルギーの有効活用とエネルギーコスト削減につながります。

特に、低圧案件では、小規模なシステム構築が可能となるため、初期費用を抑え、地域特性に合わせた柔軟な運用がしやすいという利点があります。しかし、系統接続容量の制約や、電力会社との連携など、克服すべき課題も存在します。

今後、FIP制度や蓄電池技術の進化、関連する政策や支援制度の動向を注視しながら、低圧案件における蓄電池導入を推進していくことが、持続可能な社会の実現に貢献すると考えられます。


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